

『ブラッド・ブラザーズ ―天堂口―』
(以下、『天堂口』)
この作品が大陸で公開になったのは2007年の8月でした。告知のポスターを初めて見た時、ゴージャスな雰囲気と主演俳優の豪華さに足が止まりました。帰国が迫っていて後ろ髪を引かれる思いをしましたが、遂に日本公開が決まりました。
本作はこの作品のプロデューサーでもあるジョン・ウー監督の『ワイルド・ブリット』(90)に着想を得て作られたとのこと。『ワイルド・ブリット』は『ディア・ハンター』と比べられることもあるようですが、確かに『天堂口』の繊細な次男坊シャオフーはクリストファー・ウォーケンの役を思い起こさせます。『ディア・ハンター』はマイケル・チミノ監督のあまりに有名な傑作ですが、チミノと言えば、『天国の門』という作品もあります。ちなみに『天堂口』の意味はまさに「天国の門」。

魔都と呼ばれた1930年代の上海。絵になる街は幾度となく映画の舞台になっていますが、今回アレクシ・タン監督は、80年代風のノワール映画を撮ることを目指したのではなく、現代的なスパゲッティウエスタンを撮ったという感覚のようです。セルジオ・レオネ監督のファンらしく、例えばチャン・チェン演じるマーク、「中国人はあんな風に銃を回したりしない。あの銃の使い方はカウボーイ」のようだし、リウ・イエのキャラクターは『スカーフェイス』のアル・パチーノに触発されたとのこと。監督が好きな要素を盛り込んだ映画になったようです。68年マニラで生まれたタン監督は後にロンドン、そしてNYの美大で学び、写真家としてキャリアをスタートしました。
タン監督の短編”Double Blade”(03年、ジェイ・チョウ主演)を見たジョン・ウー監督が才能を認め、プロデューサー役を買って出ました。当時ウー監督は『レッドクリフ』の準備中でしたが、若い才能支援に乗り出したのは、今の中華圏にあるのはアート映画にカンフー映画と両極端。その間を埋める良質な商業映画の不足を嘆いてのことだそうです。
そんな自身のアイドル、ウー監督に敬意を表して『男たちの挽歌』のチョウ・ユンファからチャン・チェンの役名マークとトレンチコートのスタイルが生まれたのでしょうか。
ただ話の筋を何だか「前に見たような。。。」デジャヴが邪魔をしてしまうのです。スタイリッシュだったりノワール系の作品で人物造詣が説得力を持つ作品を作るには熟練を要するのでしょう。タン監督、これからのさらなる才能開花が楽しみです。

ウー監督がさらに希望したのが次世代スターの出演。タン監督も、「今の世代で最高の俳優が勢揃いしてくれた。僕の第一希望が叶ったなんて最高だよ」と語っています。
「俳優たちは80年代の作品を見てきた世代だから、80年代の映画の影響は演技に出ていると思うよ」とは主演のダニエル・ウー。ダニエルは74年、アメリカ・サンフランシスコ生まれ。「僕のルーツも上海なんだ。祖父は貧しい境遇に育ち、30年代に上海で一旦は悪事に手を染めたけど、手を洗った。僕が演じるフォンは、悪の道にはまりながらも自分なりのモラルを追求した。祖父ととても似ているから、個人的な思い入れのある作品になったんだ。僕が生まれる前に祖父は亡くなったけど、父から話を聞いて、この役を通して祖父の精神を投影することができた」。
2003年、東京国際ファンタスティック映画祭から通訳の依頼がありました。夜中開始。。。しかし「ダニエル・ウー主演、Q&Aに登場します」と言われ、触手が動きました。初めて会ったダニエル、『美少年の恋』(98)から繊細な感じを想像していたら、とてもアメリカっぽい若者でした。ほっとくと延々と喋るところもさすがパブリックスピーキング(演説法)を授業でやるお国出身。この時の作品、『妖夜迴廊』ではプロデューサーも務め、劇中女性とも男性とも…それにちょっと過激なシーンと迷宮的な雰囲気を狙った意欲作で、本人も「タブーを恐れずにやっていきたい」と骨のあるところを見せてくれました。次にダニエルに会ったのは映画祭での『ビヨンド・アワ・ケン』(04)上映。「いつも期待されている白馬の王子様」とは違う女たらしの役を楽しんでいました。そして初監督作『四大天王』(06)。香港のショウビズ界を批判しながら自分たちもこけにしている。
なかなか固定イメージから抜け出すのは難しいように思えるダニエルですが、大学までアメリカ育ちながら、今では広東語に北京語も吹き替えなしで演じる努力家です。批判精神と問題意識も持ち合わせ、アジアや華僑のアーティストの連帯にも熱心です。最近のブログにはオバマ大統領就任を成し得たことを「アメリカ人として誇りに思う」と書いてありました。政治家に向いているかも。初の華僑系大統領も夢ではない!?
4月に香港公開が決まった最新作”新宿事件”。初期の脚本を読んだ感じだと、ダニエルはかなりアブナい役どころを演じているようです。現在製作中の次回作では共同プロデュースもしているようで、勢いに乗っているようです。
『天堂口』その他の共演者も豪華です。今までもカップルを演じているスー・チーとチャン・チェンはやはりお似合いだし、情け容赦のないヤクザなボスをハルビン出身のスン・ホンレイが、ここでもいやらしい憎らしさを見せて演じています。ここ数年大陸だけではなく、香港の作品でも大活躍ですが、3月公開の『花の生涯?梅蘭芳』といい、油が乗っています。
先月号で紹介した『香港電影天堂~HongKong Movie Paradise~』は2月6日まで開催されています。映画館スタッフの香港映画ラブなブログと共にお楽しみ下さい。
2月7日(土)シネマート六本木、3月シネマート心斎橋にてロードショー
2007年/台湾・香港/北京語/原題:天堂口
配給:エスピーオー

『三国志』
アンディ・ラウ主演。勇敢で義にあつく容姿端麗であったとされる「三国志」の中でも人気を誇る武将、趙雲を演じている。『レッドクリフPart1』を昨年11月号で紹介した際、趙雲役のフー・ジュンのかっこよさに触れましたが、趙雲にまつわる逸話や武勇伝はまさにロマンをかき立てられるものばかりです。
英語タイトル”Three Kingdoms”には
”-resurrection of the dragon-”という副題が付いています。この龍の復活、生き返りとは趙雲の不死身な精神と肉体を意味しているのでしょう。
「三国志」という長大な名作を映画化したいと願う映像作家はジョン・ウー監督だけにあらず。本作のダニエル・リー監督も「三国志」ファンであった父親の影響から長年その構想を練ってきたようです。ただ中国CCTV(中央電視台)で90年代に放送されたような長いシリーズでなければ映画一本(または二本)に納めるのは不可能と断念する向きも多く、リー監督は趙雲を主役にすることで物語の軸を設定しています。
ちなみにテレビシリーズと言えば日本人には川本喜八郎の人形劇「三国志」が思い浮かびますが、こちらでは正史を参考にしているのでしょうか、趙雲は主要な登場人物ではなかったようです。
リー監督の『三国志』はより「三国志演義」に基づいています。「三国志演義」は英語では'Romance of the Three Kingdoms'つまりよりロマンを感じさせる要素に富み、趙雲も五虎大将軍の一人である武芸の達人として多く登場します(史実の上では実は五人中最も位が低かったとされる)。リー監督曰く、「「三国志演義」は言い伝えや作り話を手がかりにした時代から1000年以上経って書かれたものである。趙雲が偉大な英雄であったことは間違いないが、映画『三国志』は歴史の解釈ではなく、むしろ我々現代人にも通じるテーマを描こうと思った。英雄の資質であったり、美徳であったりをね。」
そしてリー監督が映画を自分のものとすべく大胆に行ったのは、二人の架空の人物の創造。「三国志演義」の趙雲は穏やかで知的だが、勇敢で無敵とされている。作者である羅貫中が趙雲と同郷で、お気に入りのキャラだったとは言え完全無欠である。そうなると主役は自ずとアンディ・ラウになるのかもしれない。いつまでも若々しい容姿だけ取っても努力の人であることは間違いないし、それでいて親しみやすく品がある。実際にアンディに接した友人によると、「本当にナイス・ガイだった」と言う。何だか気味が悪くもある。それは「祖国統一と平和のために無私無欲で戦う、勇敢で高潔な英雄」、趙雲と重なるところがある。そこでバランスを取るために配されたサモ・ハン演じる平安が登場する。
趙雲は、面倒見のいい平安を兄と慕う。平安は悪い人間ではない、ただ名誉欲や嫉妬心がある俗物だった。私のような邪心の多い人間には共感も出来る。結末に至る展開は胸が痛むが、実際戦場でもどこでもよくある愛憎渦巻く人間模様であり、結局は趙雲と平安でまさに人間の表裏一体を成しているのでしょう。
もう一人の架空の人物は、曹操の孫娘という設定のマギーQ。戦国時代に男に紛れて活躍した女性がいたかどうかは定かではないが、ここでは彼女は戦場で育った筋金入りの武将として、中性的なオーラで軍を統率している。さながらGacktか、ビジュアル系のゲームを見ているようで、フィクションっぽさが際立つ。物語の説得力は落ちてしまったが、リー監督のアート・ディレクターとしての腕は撮影スタイル随所に発揮されています。白装束のアンディがとにかく決まっています。全編を通しての衣装の凝りようは、さながら戦国ファッションショー。

レスリー・チャンと常盤貴子主演『もういちど逢いたくて/星月童話』で知られるダニエル・リー監督、『ファイターズ・ブルース』ではアンディ・ラウ、『スター・ランナー』ではヴァネス・ウー、アンディ・オン、前作『ドラゴンスクワッド』ではヴァネス、サモ・ハン、マギーQをすでに起用しています。
『ドラゴンスクワッド』は、監督が中学生の頃に一番好きだったテレビドラマ「Gメン'75」の影響があるとのことですが、この作品では国籍も個性も異なる先鋭刑事(ドラゴン)たちが特捜班(スクワッド)となって戦います。
脇を固める俳優たちも見逃せません。関羽役のティ・ロン、『男たちの挽歌』でも有名ですが、妻夫木聡クンのような風貌でやたら腕の立つところを見せる一連のショウ・ブラザーズ時代の作品がレンタルでも多く出ていますので、是非その華麗なお姿を見ていただきたい。
マギーの側近を演じて印象に残るのは、『ポリスストーリー』でジャッキー・チェンの心憎い同僚を演じていたユー・ロングァン。
ちなみに記述によっては趙雲には趙統と趙広という息子がおり、長男の趙統が後を継いだとあります。本作では趙雲には相手らしき女性がいることは描かれながらもその後の展開を示唆するものはなく、関羽と張飛が世代交代しても彼はなお現役である。それがこの映画の最大のロマンかもしれない。しかし、平和のために身を投げ打った趙雲が没した後も戦いは続いた。。。
* 4月にはとサモ・ハンとヴァネス・ウーが舞台を厨房に変えてバトルを繰り広げる『カンフーシェフ』が公開になります。
* 5月にはアンディ・ラウ、ジェット・リー、金城武が義兄弟を演じる清朝末期が舞台の『ウォーロード 男たちの誓い』が公開になります。
2月14日(土)よりシャンテシネほかにて全国ロードショー
2008年/中国/北京語/原題:三國之見龍卸甲
配給:プレシディオ
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