中国映画情報!今月の紹介は「「新宿インシデント」「ウォーロード 男たちの誓い」です。

中国映画情報
映画プレゼンター、松下由美さんが中国語圏の映画を紹介するコーナーです。
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2009年5月
『新宿インシデント』・『ウォーロード 男たちの誓い』

新宿インシデント

新宿インシデント│イメージ 『新宿インシデント』

2007年夏にこの作品のロケハンのために来日をしていたイー・トンシン監督。私は一度案内を兼ねて横浜中華街へ同行したことがあります。「ちょっと違うなぁ」と監督も思ったのではないでしょうか。なんせ映画の設定では舞台は歌舞伎町。でも監督自身全編歌舞伎町で撮ることは無理だと分かっていたようで、海外映画の日本撮影に携わっている私にとっても諸事情と日本での海外撮影誘致の消極性を鑑みると、勧めることは出来ませんでした。日本も地方都市などでは撮影誘致のメリットも浸透しつつあることから歓迎をしてもらえるオープンさもありますが、歌舞伎町で撮るというのは一筋縄ではいきません。そして、脚本を読んだ後に主演がジャッキー・チェンだということを聞かされ驚きました。正直まったく想定外のキャスティングでしたから。

残念ながら私は撮影隊には加われませんでしたが、プレスシートの「ロケ撮影日誌」によると、撮影は07年10月から08年の1月までに都内と近県、宮城県や神戸、新宿でも花園神社など若干の撮影は行われたようです。07年の11月に中国映画祭でダニエル・ウーに会いましたが、その時はまだ脚本の許可が中国大陸で下りていないことからインタビューでも本作に関しては何も話せないとのことで、役柄用にパーマをかけた髪もずっとキャップで隠していました。ダニエルには極限の演技を要求される作品だったのではないでしょうか。
『ワンナイト・イン・モンコック 旺角黒夜』(04)以来、イー監督お気に入りのダニエル、『プロテージ/偽りの絆(原題:門徒)』(07)と3作連続起用されています。今まで何度か通訳を担当したダニエルのことはこのサイトでもよく触れていますが、話しだすとアメリカン(生まれ育ちはサンフランシスコ)、そして責任感が強く真面目。アジア系アメリカ人俳優の地位向上やネットワーキングにも熱心です。監督主演した『四天大王』は彼の地だと見受けられますが、二枚目のはずなのにダサイ系、おどおど君、ゲイからオタクまでと役柄はなかなか幅広い。


新宿インシデント│イメージ 『新宿インシデント』で描かれるのは80年代後半〜90年代、20年近く前の新宿です。偽造テレカをさばくというくだりがありますが、イラン人が「テレカアルよ〜」と専売特許(と言うべきか?)のように売っていたのはいつ頃までだったのか。。。
そもそもイー監督がリサーチを始めたのが97,98年頃。中国農村部では、今でこそ国を出るよりも都会へ出稼ぎに行くことが一般的ですが、当時は命の危険を冒してまで密航する人も多かったらしい。フィリピンには出稼ぎ御殿があるように、中国福建省には密航御殿があるとも聞きます。
本作では密航船で若狭湾に辿り着いた黒竜江省出身者という設定のジャッキー演じる鉄頭が下水道掃除(兼物色?)をする場面があります。いつしか死語になった、まさに3K労働。「不法滞在の外国人がやってくれなきゃ、誰も下水掃除なんてしてくれないんだから。。。」この台詞を言うのはどの作品でもアクの強い竹中直人。本作では珍しく怪演ではない控えた演技で人情味のある北野刑事を演じ、映画の中でのわずかな救いになっている。最近では不法ではない、研修という名の下に中国やインドネシアからの研修生が農業、漁業や工場を手伝い、就労と見なすならその対価では搾取に等しいと問題になりました。


新宿インシデント│イメージ
日雇いでは不安定だし搾取される。そのうちに出稼ぎや密航者は出身地域ごとに徒党を組み黒社会を形成、そこから対立や抗争が生じ、殺傷沙汰も起きた。イー監督の目に留ったのは94年に歌舞伎町で起きた「青龍刀事件」。上海組が殺し屋を呼び寄せてまで、対立していた北京組の長の首を青龍刀で切り落としたというもの。監督のコメントによると、「世界に散らばっていった中国人が、それぞれの移住先で、自分たちの孤塁を守るコミュニティー作りをするのは珍しいことではありませんが、他のもっと開かれた社会とは異なり、日本は移民の受け入れに不寛容なために、根をはるには難しい国でありつづけました」。監督を含め香港人にとって日本は人気の観光地。日本に生きる大陸の中国人のあり方に興味を持ったのでしょう。確かに日本は移民にも難民申請者にも大変厳しい移住先です。それは日本政府が日本の治安が悪くなるのを恐れてのことですが、それが却って犯罪を助長し、闇の社会に生きざるおえない人口を増やしている矛盾もあるのではないでしょうか。海外の中国人コミュニティーに惹かれたのは3月に紹介した『PLASTIC CITY プラスティック・シティ』のユー・リクワイ監督も同じです。「ブラジルのような移民の多い開かれた街でも中国や日本人移民が犯罪に手を染めている話じゃないか」と言われそうです。う〜ん、映画の題材として黒社会はやはり描き甲斐があるということでしょうか。


我らがハンズアカデミーの老師(先生)たちは、ほとんどが大陸出身者です。バイトをしながら日本語を磨き、日本人同様に日本の大学を受験、授業を受け卒業、就職に至るにはどれだけの苦学を要したかと頭が下がります。そんな裏社会とは無縁の中国人の人たちにはいくら一、二時代前を描いているにしても、こういった映画でイメージを植え付けられるのはありがたくないかもしれません。本作がいくら編集を加えても大陸での上映許可が下りなかったのは、面子が第一の中国としてはこんな中国人の姿を見せるのは容認しがたいからでしょう。
筆者が最近行ったシンガポールでは、本作がすでにNC16/Violence(16歳未満の子供厳禁/暴力シーンあり)指定で公開されており、「街角で派手にドンパチやるシーンがあったけど、日本であんなことないよね?」、「日本人の目におかしいところはない?」などと数人に聞かれました。

新宿インシデント│イメージ
ジャック・カオ演じる台湾派、その名も「ホンコン」チン・ガーロッなど、大陸出身者を描くと言ってもシュー・ジンレイやファン・ビンビンといった女優勢以外、ジャッキー、ダニエル、ラム・シュといった香港映画でお馴染みの顔ぶれを見るとやはり娯楽色は増すものの、説得力にかけてしまう。本作は脱アクション俳優を目指したジャッキーがイー監督の脚本を気に入り、ジャッキーの映画会社英皇(エンペラードラゴン)電影の資本で作られたもの。その資本がなければこんな大々的な映画製作は不可能だったでしょう。ただキャストや資本の制約なしにイー監督が好きに作っていたらどうなったのか。そして大陸出身者中心に無名俳優を起用して撮ったバージョンも見たい気がします(監督はジャッキーに「プロデューサーであっても口を出すな」と釘を刺したとのことですが)。でもジャッキー主演のあくまでドラマとしてこそ存在出来た作品かもしれない。さもなければどこかの派閥の恨みを買ったり妨害があったりと、安全に撮ることは不可能だったのでは。ドラマとは言え、一般の日本人が知らない状況を描いており、日本の一角であんな闘争が繰り広げられているのかと、薄ら寒い気がする。

はたしてジャッキーはアクション俳優からの脱皮に成功したのか?今まで御法度だった殺しに娼婦との絡みまで果敢に挑んだジャッキー。「ダニエルのお尻と比較されるのを覚悟で裸になるほど真剣で必死な姿勢は買う」という男性のコメントを聞きましたが、同性ならではの鋭い視点かもしれない。

オリジナル公式サイトではメイキング映像がたっぷり見られます(字幕付きなので、広東語や北京語の勉強にもなります)。ダニエルのカツラ別バージョンや、ジャッキーのカンペを見ながら台詞を言う姿、チン・ガーロッのアクション監督ぶり、シュー・ジンレイのNGなど。ジャッキーの今までの映画だったらクレジットとともに流れるNG集がお約束でしたが、今回はそれも封印です。

ジャッキーの新作はワン・リーホン(『ラスト、コーション』)と共演の武侠作品<<大兵小将>>。雲南で撮影したとのことで、こちらも楽しみです。

新宿インシデント│イメージ
57年に香港で生まれたイー監督の父はプロデューサー、母は女優。俳優である異父兄弟の影響で、ショー・ブラザーズ専属俳優として76年にデビュー以来40本の映画にも出演。その後86年には監督にも進出。脚本を書くのが好きで、リサーチ魔でもある監督はプロデュースも手掛けています。現在行われている「イー・トンシン監督映画祭」では監督の作家としての世界を堪能出来ると共に、香港の時の移り変わりと返還後の中国との関係の影響を垣間見ることが出来ます。
ヒット作ながら日本では公開という形にならなかった『プロテージ/偽りの絆』もスクリーンで観賞出来る貴重な機会となっています。上映期限が切れる作品もありますのでお見逃しなく。

公式サイト:www.s-incident.com/
オリジナル公式サイト:http://shinjukuincident.emp.hk/

* メイキング映像は「製作花絮」か「Making Of」をクリック
イー・トンシン監督映画祭:
http://www.cinemart.co.jp/theater/roppongi/hong_kong02/
2009年/香港/北京語ほか/119分/原題:新宿事件
5月1日(金)より新宿オスカーほか全国ロードショー 配給:ショウゲート
(C)2009 Emperor Dragon Movies Limited All Rights Reserved

ウォーロード 男たちの誓い

ウォーロード 男たちの誓い│イメージ 『ウォーロード 男たちの誓い』

本作と『新宿インシデント』を比べると、現代の香港と中国の映画関係がよく分かります。脚本の時点で許可が下りないまま撮影に入り、中国での公開のために編集を重ねながらも大陸は断念、4月に香港や東南アジアで公開となった『新宿インシデント』。かたや『ラブソング』、『ウィンターソング』のピーター・チャン(陳可辛)監督と四川省出身の敏腕プロデューサー韓三平(『始皇帝暗殺』、『山の郵便配達』、『ミラクル7号』、『レッドクリフ』ほか多数)が組み、ジェット・リー、アンディ・ラウ、金城武の3大スター競演の『ウォーロード 男たちの誓い(以下、ウォーロード)』は昨年の’香港のアカデミー賞’、香港電影金像奨では作品賞、監督賞、男優賞、撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞、音響効果賞、視覚効果賞と計8部門で授賞。社会派の信念とポリシーを曲げずに撮った『新宿インシデント』は観客と映画界にどう評価されるのでしょうか。

香港の映画市場が低迷していることから、多くの映画人はより大きな市場を求め、大陸での上映を前提に、審査に通るように脚本を書くようになっています。たとえば広東語で作り続けるジョニー・トーには確固たる自負と作風、それに海外での人気によるところも多いのではないでしょう。今年のカンヌのコンペに選ばれた最新作《復仇》はフランスのロック歌手、ジョニー・アリディを主役に香港で撮っていますが、香港・仏・米合作です。パン・ホーチョンのようなローカル性が強い作家の場合、彼から香港と広東語を取ったら映画が撮れるのかと思えるほどですが、彼のように「自分の書きたいことを曲げてまで中国で映画を見せたいと思わない」とはっきり明言する作家は少数派です。

もちろん現代劇か時代劇かでも事情は違います。『ウォーロード』で描かれるのは19世紀末。近頃三国志慣れしてきた中華圏映画ファンにとってはぐっと近代の感があります。10年以上に及ぶ内戦の混乱の中、5000万人もの人々が飢餓や戦いによって命を落とした清朝末期、西太后による圧政下の権力争いの駒として三人の男たちの人生は翻弄される。

これはバカがつく純粋な男たちの物語です。味方の兵士1600人を失った清軍の将軍、パン(ジェット・リー)と出会った盗賊の兄貴分アルフ(アンディ・ラウ)と弟分のウーヤン(金城武)は、民の平和のために軍人になることを決め、「投名状(本作の原題)」にて義兄弟の契りを結ぶ:生死を託し助け合い、不幸も苦難も共に乗り越える。義兄弟を傷つけし者には必ずや死を。天地山河にこれを誓う。裏切りには天誅(天罰)を」。彼らは清朝により山(シャン)軍と名付けられ、800人ながらもパンの優れた戦術と見事な統率で進撃を続けるが。。。
それぞれの思い、目的も異なる三人の間に亀裂が入っていく様が興味深い。ウーヤンのナレーションで話が進んでいきますが、羅生門のように三人それぞれの視点で描いたならまた全く違った話になることでしょう。ウーヤンはいつも選択を迫られ、「投名状の誓い」と自分を納得させ、同時に投名状に忠実なことというのが彼の選択の基準でもある。
パン将軍のような武術の達人なら絶対自分の陣に引き入れたいと思うでしょう。でもこれがなかなかくせ者。戦において金と食料と女を奪うのは当たり前とばかりにやり放題の兵士を戒め、見せしめにするパン。領土奪還やら大義名分が何であれ許されない卑劣な行為に対して「この世の誰も迫害を受けてはならない」。いよっ!男も惚れる男。これを機にウーヤンは「大哥是対的(パン兄貴は正しい)」を連発。だがそれ以降は権力への野心もあり冷酷な面を見せていくパン。。。策士ではなく、単細胞でもあるアルフはついていけなくなっていく。
「善のために殺すこともある、価値のある死だった」、「いくさはだまし合い」、「捨て石」といった言葉に栄華を極めた皇太后の時代らしく、民の命の価値がいかに軽んじられていたかを感じる。それは下っ端の兵士も同じで、いつも前線にいる彼らが死ぬのは必至である。なんと馬にも目隠しして突進というシーンがあり、「この撮影では動物は傷付いていません」というお決まりのクレジットに「動物は言葉を発しないからな〜」と思いつつ、1520人のエキストラ、300頭の馬、870人のスタッフという大陸的な数字は圧倒的な絵を作り出している。蘇州城のシーンは、それ故に見るのが辛い。

今月の二本の隠れテーマは「シュー・ジンレイまつり」。清楚な印象の彼女ですが、今回どちらの作品でも彼女がそもそもことの発端であり、その気がなくても男を手玉に取っている魔性の女っぷりです。シュー・ジンレイは脚本・監督を手がけ、北京電影学院で教鞭も取っていますが、ブログの女王としてもつとに有名です。ちなみにアンディは彼女の子供の頃から憧れのアイドルだったそうで、夫婦としての共演はとても嬉しかったようです。しかしながら男の間ではリーダーのアルフも、金持ち相手の遊女として広い世界を知った妻にとっては愚直で物足りない男。そこへ複雑な内面を持ったよそ者パンが現れ、彼女は心乱される。

確実に新たな側面を見せる、これはやはりジェットの映画でしょう。あれ?以前アクション映画に終止符を打ったと言っていましたが。。。でも彼も確実に演技重視の役を選んでおり、香港電影金像奨の男優賞授賞の際には「俳優になって28年。やっと晴れの舞台に上がることができた」と喜びを語りました。その後ジェットは自身が主宰する慈善団体「壱基金」を通して四川大地震の救援活動に専念するため1年間の活動休止を宣言しています。何本も来ているオファーに関しても、短い期間で撮影が済むことが条件としており、主演は無理とのこと。

『ウォーロード』のアクション監督は『少林サッカー』、『LOVERS』、『HERO』と数多くの作品を手掛け、先月号で紹介した『エンプレス 運命の戦い』の監督、チン・シウトン。彼が監督した96年の『冒険王』の主演がまだリー・リンチェイ(ハリウッド進出前)だったジェット・リーと金城君でありました。ジェットの女装、金城君の超おとぼけなど本作とは全く違う趣で、『ウォーロード』の後で見るとさらに楽しめるでしょう。また、『エンプレス 運命の戦い』つながりでしょうか、短い出演ながら、蘇州城主役で特別出演しているグオ・シャオドンが光っています。

ピーター・チャン次なる企画はエリック・ツァンとともにプロデューサーを努める<<十月圍城>>。監督はテディ・チャン、出演はレオン・ライ、ファン・ビンビン、ドニー・イェン、レオン・カーファイ、サイモン・ヤム、フー・ジュン、ニコラス・ツェーにワン・ポーチエ(8月に日本デビュー作の『九月に降る風』が公開される新人です)。。。なんとも豪華な面子です。

清朝末期が舞台と言えば、浅田次郎の「蒼穹の昴」が来年NHKでドラマ化されます。貧しい家の出ながらも、占い師の言葉を信じて10歳にして宦官の道を選ぶ主人公、李春雲を演じるのは『花の生涯 ~梅蘭芳~』でスターの素質を見せつけたユイ・シャオチュン。
そしてなんと西太后を演じるのは田中裕子。「おしん」で中国でも知られる存在ですが、日本屈指の演技派だけに期待が持てます。

公式サイト:http://www.warlords.jp/
壱基金:http://www.onefoundation.cn/

2007年/香港=中国合作/北京語/1時間53分/原題:投名状
5月8日(金)より、全国ロードショー
配給:ブロードメディア・スタジオ
(c)2008 Talentaid International Ltd. All Rights Reserved.

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松下由美・・・・東南アジアとヨーロッパに長く滞在。
映画祭・映画イベントの司会・英語通訳や映画撮影の製作を担当している。
アート、インディペンデント系、アジア作品を多く担当し、中国語圏作品好きも高じて中国へ短期留学経験あり。
Sintok シンガポール映画祭実行委員。http://www.sintok.org/
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