

『トーテム song for home』
写真家である若木信吾(以下若木)が撮った二作目のドキュメンタリー。撮影で訪れた台湾で若木が出会ったバンド、トーテムを追ったドキュメンタリー。台湾には政府に認定されているだけでも14の部族があるという。異なる原住民のメンバーで構成されているトーテムのヴォーカルを担当するスミン。台東出身の阿美族である彼が主人公だ。若木自身が惹かれたであろう、そのすべてが画面に投影され、説明過多に陥らないそのスタイルは、ドキュメンタリーというよりフォト・エッセイが映画になったような感じだ。
台湾は気軽に行ける旅行先だけれど、通でないとなかなか台北以外へ足を伸ばす人は少ないかもしれない。私の周りには台湾の音楽に魅せられ、少数民族の音楽にも造詣の深い人たちがいます。『トーテム song for home』(以下『トーテム』)でも音楽の魅力は十分に伝わってきますが、この作品は「音楽ドキュメンタリー」だけにあらず。描かれているのは風景、原住民のコミュニティー、地方と台北、村の生活と都会の生活。昨年9月号で紹介した「台湾シネマ・コレクション」でも、風光明媚で豊かな言語文化が背景として上手く取り入れられた『練習曲』と『遠い道のり』が上映されましたが、生活苦や伝統の継承と言った問題も匂わせながら、『トーテム』はあくまでスミンありきの映画だろう。

スミンの少年のような姿と純朴な雰囲気。「大切なものなんてないよ」、と言いながらも故郷の台東(スミンは台東⇔台北間を10時間かけてバイクで行き来をしている)と、伝統と音楽を愛して継承しているスミン。そして夢は村長になるか有名なミュージシャンなんて言うところがかわいい。しかし彼が歌い、そしてギターを、笛を手にしたりピアノの前に座るとそれは原住民の神(という存在はいるのだろうか)に選ばれた神童のようで、才能があるといったレベルではなく、音楽は彼に取っては呼吸をしたり、寝たり食べたりするように自然で且つ不可欠な要素だと感じる。
***なんてことを思いながら、今年末に公開予定の『海角七号 君思う、国境の南』の取材の際に主演俳優でシンガーのファン・イーチェンに話をしたら、「そんなかっこいいもんじゃないよ!」と笑われました。「スミンは阿美族の部落で長く育ったから、彼にとっての民族音楽は僕より身近な存在だけど」。阿美族の血を引くファンですが、彼は若くして台東の村から台中へ引っ越しており、やっている音楽はロックやバラードです。
トーテムも純粋な民族音楽のバンドではなく、民族音楽にロックやラップなどが混在するフュージョンな音楽を展開し、歌詞も民族の言語や北京語が混ざっています。面白いのが、バンド・メンバーが各々レッチリ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、中国語では嗆辣紅椒!)など好きなミュージシャンを挙げるシーン。メンバーが「スミンのアイドルは民族音楽のおじさんたち」とからかうのが愉快です。公式サイトでもトーテムの音楽が聴けます。

ところでスミンは昨年の台湾金馬賞で最優秀新人賞を受賞しているのです。最優秀短編映画賞を受賞した『跳格子』という作品の主演だそうで、彼の演技を是非見てみたいものです。そしてスミンは手芸マニアらしく、民族衣装の刺繍なども自身で手掛けるのだとか。日に焼けた自然児のような容姿ながら、アーティスティックで器用さも備えたスミン - アイドルの素質十分ですね。F4やジェイ・チョウとは違う、台湾発の新しいタイプのアイドル登場か?!。
この作品で印象的だったのはキリスト教に触れる部分。原住民の間で信仰されていた土着の宗教観念は否定させられたのでしょう。キリスト教が根付いた今では、信者にとってキリスト教は心のよりどころとなっているのだろう。ただ布教も宗教という価値を押し付ける一種の植民地化ではないか。それなら日本軍の統治時代はどうなんだと言われれば、それこそ台湾の人々に苦痛を強いたのに他ならず、日本人は批判が出来る立場ではない。日本の台湾統治は明治28年(1895年)から昭和20年(1945年)までの51年という長きにわたったため、台湾の映画では日本の歌を歌うシーンがよく出てくる。農民を描き大ヒットをしたドキュメンタリー<無米楽>(’05・映画祭上映のみ)、そして『トーテム』でも村のお年寄りたちが「お馬に乗った兵隊さん〜兵隊さんは大好きだ」と彼らが朗らかに歌えば歌うほど居心地の悪い気持ちがしてならないが、彼らが何だか楽しそうなのがかえって複雑だ。。。。
『海角七号 君思う、国境の南』はそんな日本統治時代の叶わぬ愛と、現代の台湾と日本の男女の愛を描き、何より台湾人のために撮られた台湾映画として絶大な共感を得ました。台湾映画として史上ナンバーワンの記録を打ち立て、12月からいよいよ日本公開されます。こちらのサイトでもウェイ・ダーション監督と主演のファン・イーチェンのインタビューを掲載します。
2009年/日本/国語(北京語)、台湾語ほか土着語/85分
10月24日(土)よりシネマート六本木にてロードショー
11/7~13 名古屋シネマテーク
11/28~12/4 新潟十日町シネマパラダイス
12/12~18 沖縄桜坂劇場
配給:ヤングトゥリーフィルムズ