中国映画情報!今月の紹介は「『ソフィーの復讐』・原美術館「ヤン フードン - 将軍的微笑」展です。

中国映画情報
映画プレゼンター、松下由美さんが中国語圏の映画を紹介するコーナーです。
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2010年1月
『ソフィーの復讐』
『原美術館「ヤン フードン - 将軍的微笑」展』

『ソフィーの復讐』

ソフィーの復讐│イメージ
『ソフィーの復讐』

新しい年に、今までとは違うタイプの中国映画のご紹介です。チャン・ツィイー初のロマンチック・コメディーにして初のプロデュース作品。昨年大陸と香港の共同製作と配給を行っている大手の会社の方と話をする機会がありましたが、「ロマンチック・コメディーは当たらないと言われてきた中国で『ソフィーの復讐』は大ヒットした。これからはこのジャンルも増えていくだろう」とのこと。09年の8月に公開され初登場1位を獲得、最終的に5億円以上売上げたとのことです。日本でもいくつかの映画祭で上映された中国のヒット・メーカー、フォン・シャオガン監督の<非誠勿擾>(日本でプレミア上映された大阪アジアン映画祭でのタイトルは『誠実なおつき合いができる方のみ』)もロマンチック・コメディーと呼ぶにはちょっとひねくれているところも楽しめる作品ですが、中国で大ヒットしました。中華圏に北海道旅行ブームを起こした作品でもありますが、日本の敏腕ロケーション・チームの参加で北海道のシーンがきちんと撮られており、なんちゃって日本になっていないところも大きいかもしれません。チャン・ツィイーのデビューはあまりにも有名なチャン・イーモウ監督の『初恋のきた道』ですが、中国で昨年末公開になったチャン・イーモウ監督の最新作<三槍拍案驚奇>もなんとコメディです。

ソフィーの復讐│イメージ
チャン・ツィイーは09年「フォーブス」誌の<中国で最も社会的影響力のある女性>に選ばれていますが、実のところ中国国内では海外ほど人気も評価も高くない、といった話も聞いていました。『花の生涯 ~梅蘭芳~』の男役を演じる京劇役者はまさにはまり役で、優雅さの中に茶目っ気もありました。ただやはり彼女は芯の通った役や武術の達人の印象が強いですから、待っていてはオファーが来ないようなソフィー役の脚本に惹かれ、プロデューサーまで買って出たのかもしれない。そうすれば周りの期待するチャン・ツィイーではなく、文字通り自分をプロデュース出来る訳ですし。
アジアン・ビューティーのチャン・ツィイーが茶髪で登場しただけでも新鮮で、「地毛かしら、染めたりして髪が傷んでもいいの?」とこっちが心配になります。
ツィイーによると、ソフィーは「とてもキュートで明るくて少し間の抜けた部分のある誰からも愛されるキャラクター」。「以前からコメディに挑戦してみたかったのです。ソフィーは躍動感あるキャラクターだと思いますね。私がこのシナリオと出会ったタイミングは絶妙でした。とにかくソフィーの心理状況を完璧に把握出来たんです。最初はソフィーと自分自身に距離感を感じていましたが、演じるうちに親近感を覚えました。私の周りの女性たちは情熱を持って生き、愛には希望があると信じています」。チャン・ツィイーは上昇志向と努力の塊のような人でしょうから、ハリウッド進出のためにきっと英語の習得にもそれは真剣に取り組んだのでしょう。昨年はイスラエル人富豪の恋人との様子をパパラッチされ、中国で批判の的になったようですが、単に国の看板女優を外国人に取られたやっかみかもしれません(ゴン・リーも夫の国であるシンガポール国籍を選んだことでバッシングを受けましたが)。筆者はかえって恋人とビーチで寛いでいるパパラッチ写真を見て、チャン・ツィイーが普通の女の子してる、と好感を持ちました。

ソフィーの復讐│イメージ 『ソフィーの復讐』のあらすじは、結婚間近かと思っていた恋人のジェフに別の女 –タチの悪いことに美人女優- に乗り換えられあっさりフラれた漫画家のソフィーが、彼を奪い返し、と同時に振ってやることで復讐を遂げるためのあらゆる策を講じる。女優の元彼らしきゴードンも巻き込み、後に「ソフィーの恋愛マニュアル」出版に至るドタバタ悲喜劇を繰り広げる。 フロリダ州立大学で映画を専攻し、漫画本も出版している監督のエヴァ・ジン(金依萌)によると、ソフィーの行動は『恋におぼれて』(97)や『フレンチ・キス』(95)(ともに主演は「ラブコメの女王」メグ・ライアン)を連想させる部分があり、全体的な色彩は『アメリ』(01)を参考にしたとのこと。筆者がどこか思い起こされたのが『P.S. アイ・ラヴ・ユー』(07)。主人公の部屋のインテリアのポップ感覚(とそこにあるものを色々投げるところ)、男性役やボクサー役を演じてきた演技派ヒラリー・スワンクが普通の女性を演じていたところ、そしてジェラルド・バトラーの肉体美披露からでしょうか。チャン・ツィイーと監督のアメリカ経験が、中国映画に今までなかった感覚の作品を作らせたのでしょう。どこかスマートさに欠ける部分も目に付きますが、きっと中国の女性たちはソフィーの一人暮らしの部屋、洋服(特にパジャマ?)や、発音が洋風にも聞こえる漢字の名前に憧れるのでしょう。キュートか単なるお騒がせなのか分からないところがあるソフィーもチャン・ツィイーが演じるからこそ健気だし、そして一カ所『初恋のきた道』(00)のパロディのようなシーンがあったと思うのですが、自分を笑うことができたら一級のコメディエンヌでしょう。

ソフィーの復讐│イメージ 本作は韓国との合作で、ソフィーの恋人で外科医のジェフを演じるのは韓国人俳優ソ・ジソブ。ジソブ様は『映画は映画だ』(08)で素晴らしくクールなやくざを演じていましたが、今までにないコミカルな役、そしてすべて中国語の台詞をこなすという挑戦をしました。もう一人の相手役、ゴードンを演じているのはピーター・ホー。アメリカ生まれで最初は台湾を中心に、その後中国のテレビ時代劇で活躍、NHK「上海タイフーン」で日本でもお馴染みになりましたが、あまり大陸の香りが漂わない男優たちを起用したのも意識をしてのことでしょう。それとも脱ぐとすごいんです上半身自慢を揃えたのは、単なる女性陣の趣味かもしれません。筆者は昨年ピーター・ホーのデビュー作『真心話』上映イベントで司会をする機会に恵まれましたが、厚みのある上半身には不釣り合いなほど小さなお顔が乗っていました。イベントの担当者が『真心話』(99年、イー・トンシン監督)に思い入れがあったため二人で質問を練り、ピーター君を質問攻めにしてしまいましたが、彼は本音をぼんぼん語ってくれ、飾り気のない素顔が垣間見られました。

ソフィーの復讐│イメージ ソフィーの恋敵、女優のジョアンナをファン・ビンビンが少女漫画的ゴージャスなオーラを放って演じています。タカビー女の設定ですが、たまらなく楽しい役でしょう。私が男だったら、女優も漫画家も彼女にするのは大変だろうな〜と、これまた現実的なことを思ってしまいました。漫画家は描く時間は問わないし、掃除をしなくても死にはしない。頭の中では絶えずストーリーを構築している(というイメージがあります)。最後にソフィーに「君の声をずっと聞いていたい」、そんな真実の愛を伝えてくれる台詞がありますが、それは君に一生振り回されたいということでもあります。でもそんなお騒がせちゃんに限って、一度慣れると愛着が湧いて、そばにいないと寂しいのかも。

次回作は<新西遊記>とも言われているチャン・ツィイーですが、孫悟空か三蔵法師のどちらでも似合うかも。ところでチャン・ツィイーに似ていることでも話題の女優トン・ヤオの映画デビュー作、『台北に舞う雪』が2月に公開されます。北京の中央戯劇学院卒業ということでもチャン・ツィイーの後輩です。彼女についたあだ名が小チャン・ツィイー、それだけチャン・ツィイーが大物になったということかもしれません。

公式サイト:http://www.sophie-movie.jp
2009年/中国・韓国/北京語/107分/原題:非常完美
1月9日(土)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:メディアファクトリー、熱帯美術館
©2009 SOPHIE PRODUCTION LTD, PERFECT WORLD CULTURE COMMUNICATION CO., LTD. and CJ ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED

『ヤン フードン — 将軍的微笑』

ヤン フードン — 将軍的微笑│イメージ
Yang Fudong, The General’s Smile,
multiple-channel video installation, 2009
『ヤン フードン — 将軍的微笑』
東京都は品川区の原美術館へ行かれたことはありますか。1938年に建てられた原家の邸宅だった建物と庭がコレクションを擁する、そして様々な特別展を開催する現代美術の邸宅となったのは1979年から。原館長とスタッフの鑑識眼と愛着が静かに感じられ、カフェやショップでもゆっくり時間を過ごせる贅沢な空間です。現在中国人のアーティスト、ヤン フードン日本で初めての個展が開催中です。大きなダイニングテーブルがスクリーンとなって映像が投影される作品がありますが、単なる箱ではなく「家」という歴史があった美術館だからこそ生きる作品です。 日本でも昨年は東京の森美術館で「アイ・ウェイウェイ展 何に因って」が開催されるなど、中国の現代アートに触れる機会は増えてきました。ちなみにアイ・ウェイウェイは北京電影学院を卒業しています。中国の現代アートは一時期投機の対象になったりと、かなりバブルな時期があったようですが、今では落ち着いてきているようです。中国の様々な分野に海外資本が参入していますが、現代アートも<国際化>が進んでいる分野でしょう。ヤン フードンも、マネジメントはヨーロッパ人が経営する上海のギャラリーです。

ヤン フードン — 将軍的微笑│イメージ
Yang Fudong, Seven Intellectuals in a Bamboo Forest Part 3,
35mm B&W film/DVD, 53min., 2005
日本では映画監督や美術家は貧乏なイメージがあったりしますが、中国では文化的な生活、そもそも映画や美術に触れる機会やゆとりのある層が限られていますから、職業の選択肢としてこういった道を選ぶ人はある程度裕福な家庭の人ということになるでしょう。北京生まれのヤン フードンの背景は詳しく知らないのですが、ある程度お坊ちゃんではないかと察します。都会っ子であろう彼が描く農村の光景を映した映像は、独自のフィルターを通した世界が展開されています。

【展示紹介】
このたび東京の原美術館にて、近年国際的な活躍が目覚しい中国の映像作家、ヤン フードン(楊福東)の日本における初個展を開催いたします。35ミリフィルムに愛着を持つヤン フードンの作品は、細かい粒子が残る独特の質感、完璧な構図を用いた格調高い映像美を特徴とし、目まぐるしいスピードで変わり行く中国現代社会の断片と、そこで暮らす人々を、ときにドキュメンタリー調に、またときに演劇調に表現しています。本展では、老将軍を囲む祝宴の情景を通して、人間の普遍的な在りようを描いた大型の映像インスタレーション「The General’s Smile」(「将軍の微笑」2009年)、世俗を避け竹林で清談する賢人たちの故事を模して、現代の知識階級の若者像の内面に迫るシリーズ作品「Seven Intellectuals in Bamboo Forest Part 3」(「竹林の七賢人 part3」2005年)など、本邦初公開の珠玉の映像作品の数々により、魅力溢れるヤン フードンの世界をご紹介いたします。

【作家略歴】
ヤン フードン(楊福東):1971年北京生まれ。95年杭州・中国美術学院卒業。上海在住。写真や映像作品の制作で国際的に注目される。第4回上海ビエンナーレ(2002年)、ドクメンタ11(02年)、第50回ヴェネツィア ビエンナーレ(03年)、第52回ヴェネツィア ビエンナーレ(07年)、など多くの国際展に出品。日本では、第1回横浜トリエンナーレ(01年)、第3回福岡アジア美術トリエンナーレ(05年)ほか、グループ展でも多数紹介されている。

会期:2009年12月19日(土)- 2010年5月23日(日)
会場:原美術館(東京都品川区)
公式サイト:http://www.haramuseum.or.jp
Courtesy of the artist and ShanghART Gallery
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松下由美・・・・東南アジアとヨーロッパに長く滞在。
映画祭・映画イベントの司会・英語通訳や映画撮影の製作を担当している。
アート、インディペンデント系、アジア作品を多く担当し、中国語圏作品好きも高じて中国へ短期留学経験あり。
Sintok シンガポール映画祭実行委員。http://www.sintok.org/
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