中国映画情報!今月の紹介は「「エグザイル/絆」「黄秋生(アンソニー・ウォン)、遊侠一匹」「中国映画の全貌2008」です。

中国映画情報
映画プレゼンター、松下由美さんが中国語圏の映画を紹介するコーナーです。
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2008年12月
『エグザイル/絆』・『黄秋生(アンソニー・ウォン)、遊侠一匹』・
『第9回東京フィルメックス』を振り返って

エグザイル/絆

エグザイル/絆│イメージ
Photo (C)Miho Kakuta
『エグザイル/絆』

昨年の東京フィルメックスでかかった『Exiled 放・逐』(原題)の配給が決まり、一年後に『エグザイル/絆』としてめでたく公開となりました。
ジョニー・トー監督ファンも、今作が初めての方も堪能いただきたいと思います。
先月のフィルメックス紹介で触れたように、フランシス・ン(呉鎮宇)はちょっととぼけたようでやるせない姿、奇人変人も演じさせるとこれまたはまる三枚目振りが魅力ですが、『ザ・ミッション/非情の掟』(99)では決まってました。
フランシス、実はかっこいい。
初のトー監督作品出演、そして台湾金馬賞最優秀男優賞受賞。
この作品でトー映画ファンになった私ですが、スタイリッシュとは言えあの香港調タンゴのような耳を離れないテーマ音楽などまだスキがありました。
フランシス自身もその後も大陸の連ドラなどで、それはないだろうというような髪型やファッションで登場するので安心させられていた。。。ところが『エグザイル/絆』、遊び心があるストーリー運びながらも様式美を湛えた極めてスタイリッシュな仕上がり。
舞台であるマカオのロケーションやディテールへのこだわりも心憎い。
さぞ入念なリハーサルを要したのでは?


エグザイル/絆│イメージ
(C)2006 Media Asia Films (BVI) Ltd. All Rights Reserved.
驚いたのがアンソニー・ウォン、フランシス両氏が放つオーラに当てられっぱなしだった来日記者会見でのアンソニーの発言。
「脚本どころかストーリーも役の説明もなかった。
(他の3人に)今日なにやるの、と聞かれるのがつらかった。
ポスターにも使われているシーンの採石場は2階建てくらいの高さで、駆け下りる直前どうするって聞かれて、イメージとしてはマルボロのCM風に(あのテーマ曲をハミングしながら)って指示を出した」。
その日にやることを聞かされ毎日びっくりの連続、もう何があっても驚かない、とか。なぜアンソニーが助監督的役割を果たしたのかの問いにフランシスは「他の人は監督に聞く勇気がないし、アンソニーは教えたがるタイプだから聞くと喜んでくれるんだ」。


エグザイル/絆│イメージ
(C)2006 Media Asia Films (BVI) Ltd. All Rights Reserved.
記者会見ではまるで漫才のようで、二人で裏話を披露してくれました。

@寒いときの撮影では、フランシスが羊肉しゃぶしゃぶと中国ソーセージで皆をもてなした。
Aラム・シュは赤いパンツで危ない撮影シーンも凌げると占い師に言われ愛用。あるとき撮影中に骨折した。
その日は赤いパンツを履いていなかった。
Bロイ・チョンには『カンフーハッスル』の妻役を演じたユン・チウのあだ名がついた。
くわえタバコにカーラーを巻いたままうろうろしていたから。
Cニック・チョンは階上から投げられたり、あわや火葬されるところを生き延びた。

◎空き時間の過ごし方・役割分担:

●アンソニー:
おいしい精進料理店や、珍しい広東料理店案内。
●ロイ:
カラオケ屋の予約を取る。
●ラム・シュ:
翌日仕事があるかの確認。
●フランシス:
カジノでブラブラ。


エグザイル/絆│イメージ
(C)2006 Media Asia Films (BVI) Ltd. All Rights Reserved.
メインの役者四人が同じなので、どうしても『ザ・ミッション/非情の掟』を引きずってしまいますが、ここまでスキがないとどうなのよ、と聞くと「監督からは一言、『ザ・ミッション/非情の掟』の続編にしたい。
アクション・シーンで意味もなくゆっくり歩くシーンが多いが、『ザ・ミッション/非情の掟』の歩き方が香港モデルなら、『エグザイル/絆』は国際的モデル、グッチやゴルチェ(のショー)だと言われた」とフランシス。

トー監督自身、「『エレクション』2作が苦しかったから、この映画は苦労して撮りたくなかった。
でないと、映画を愛せなくなりそうだった」と語っているように、今作は時にどうすれば楽に撮れるかを考え、撮影中に「眠いから帰って寝る」なんてこともあったとか。
香港映画としては異例の長い撮影。
フランシスは「香港の黒社会映画を支える俳優4人が9ヶ月の撮影期間拘束されたことは、香港市民にとって大変辛い時期だった」と、笑い事ではない話も。


エグザイル/絆│イメージ
(C)2006 Media Asia Films (BVI) Ltd. All Rights Reserved.
ジョニー・トー映画とは昨年の東京国際映画祭で『マッド探偵』上映時の司会を担当した際にお会いしました。
普段緊張はしない私ですが、この時だけは冷や汗ものでした。
壇上ではちょいワルおやじ風だった監督、アテンドの方によると、それまでにこやかだったのが、劇場に着くなりサングラスをかけて俺様モードに入ったとのこと(ちなみに記者会見では「ラム・シュの役はトー監督の分身」という話も)。

トー監督の新作は現在フランスから30年来の人気を誇るロック歌手、ジョニー・アリディを迎えて撮影中。
熱望したアラン・ドロンには出演を断られてしまったようですが、オーランド・ブルームとも撮るらしいですね。
ファンとしてはいつまでも香港にこだわって撮って欲しいと願いますが、進化するジョニー・トーを見守りましょう。
「機会があったら、この(『エグザイル/絆』)チームで10年後に老人版を撮りたい」って監督、10年後で老人だなんてまだまだですよ。
これから10年毎にずーっと撮ってもらえると、こっちも老後の楽しみができます。


公式サイト:http://www.exile-kizuna.com/

12月6日(土)よりシネマスクエアとうきゅう、シアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー
2006年/香港・中国/広東語/109分
配給:アートポート



黄秋生(アンソニー・ウォン)、遊侠一匹│イメージ
『黄秋生(アンソニー・ウォン)、遊侠一匹』

アンソニー・ウォン特集上映と聞いて、まずいったいどの作品が、そして何本かかるのだろうかと思いました。
出演作品の多さはエリック・ツァンやラム・シュともいい勝負かもしれません。
今回上映されるのは8本。
『インファナル・アフェア』三作ほかすでに公開済みのものが多く、『八仙飯店之人肉饅頭』(93)のようなキワモノ時代の作品も見たかったですが、今まで映画祭上映のみだった『イザベラ』(06)が連日上映されます。


黄秋生(アンソニー・ウォン)、遊侠一匹│イメージ
『イザベラ』の監督はパン・ホーチョン。
2004年の東京国際映画祭(TIFF)で初登場にして特集上映をされてから毎年新作が上映されている、知る人ぞ知る監督です。
いままでどの作品も劇場公開されていないにも関わらず、TIFFでは毎年いち早く前売券が完売するとか。
私は毎年TIFFで監督とのQ&Aの司会を担当してきましたが、監督に彼の有能なパートナー、そして観客の皆様もお馴染みの方が多く、毎年クラス会を開催しているような楽しい時間を過ごさせてもらっています。
ルックスはやんちゃんな少年のようで、映画は学生映画のノリで作ったようなエッチで何者にも囚われない自由な作風だったりする半面、凝り性で緻密なところを見せたりと、飽きさせない。
監督自身、ひとつのジャンルや枠に収まりたくないと、果敢に挑戦を見せてくれますが、香港ではアート系映像作家と位置づけられているようです。


黄秋生(アンソニー・ウォン)、遊侠一匹│イメージ


『イザベラ』によって「第2のウォン・カーウァイ」と評され、ベルリン国際映画祭のコンペティション部門にも出品、音楽賞(ピーター・カム)を受賞。
主演はチャップマン・トー、イザベラ・リョン。はまり役のチャップマン・トーと監督は共に不是兄弟(no brothers)公司を設立し、チャップマンは『イザベラ』以降もプロデューサーを務めています。


黄秋生(アンソニー・ウォン)、遊侠一匹│イメージ
舞台は『エグザイル/絆』同様マカオ。イザベラ・リョン自身マカオの出身で、この難しい役も、父親と幼くして別れたという実体験があるからこそ痛々しい感覚を演じきれたのかもしれません。
マカオ出身は他にもミシェル・リー、『エグザイル/絆』に出演しているジョシー・ホーなどポルトガル系の血が入った顔立ちの女優さんがいますが、イザベラもポルトガルや英国系の混血だそうです。
この後イザベラは、今回上映される『ハムナプトラ3』(08)でハリウッド・デビュー。所属事務所とのごたごたなどありましたが、今年弱冠二十歳。国際的な活躍も期待できますが、香港映画にも出続けてくれるでしょうか。
もう一人『イザベラ』で注目なのが、イザベラ演じるヤンの級友を演じるデレク・ツァン。
俳優以外にも映像作家、脚本家として才能が期待される俊英です。外見は似ていませんが、エリック・ツァンの息子です。
名プロデューサーでもある父に続いて香港映画界を支えていって欲しいです。
ところでアンソニー・ウォン、『イザベラ』撮影はなかなか苦しかったようです。
それは見てのお楽しみ。。。。


公式サイト:http://www.cinemavera.com/schedule.html

12月6日(土)〜12月19日(金)シネマヴェーラ渋谷にて開催。

『第9回東京フィルメックス』を振り返って 『第9回東京フィルメックス』を振り返って

11月22?30日にわたって開催された映画祭。
昨年コンペティション部門で『最後のきこりたち』が上映されたユー・グァンイー監督。
あまり興味を引かれず、監督のQ&Aのない上映を見ました。
今年も続けてコンペに選ばれた『サバイバル・ソング』。
2作とも監督の故郷、中国黒龍江省の山奥で撮影されていますが、『サバイバル・ソング』は何とも人間くさい話で引き込まれました。
監督と撮影対象者との距離が近いのがよく分かる。

ドキュメンタリーでここまで対象が自然に振る舞ってくれるというのは、よほど気心が知れている間柄だろう。

それというのも密猟行為や共産党政府批判など、「この作品がどこかに漏れたらこの人たちは罰せられたりしないのか」、見ている方がはらはらする。監督と対象者の一人は軍隊時代の「戦友」とのこと。
監督は自分の故郷の真実を、悲惨な状況を記録することを揺るぎない信念を持って行っている。
監督が木訥とした佇まいであるだけに、よけいそれを強く感じる。
中国国内での上映はいくつかの大学でのみ、いわゆる地下上映だが、ここが変わらないと先に進めない。
この作品にはもう一人、シャオリーツー(小李子)という何とも愛嬌のある対象が登場するのだが、子供のように屈託がないようで、色気はしっかりある。それを隠さないのが何とも可愛い。
彼が日本の大勢の観客と共に座ってこの映画を鑑賞していたら、どんなリアクションをするのだろうか。
そもそもシャオリーツーは省の外へ出たことがないのかもしれない。
女っ気のない環境下の労働者たちの性への渇望が印象的である。
監督は「次回作では性と人間性に関する問題に取り組みたい」とのこと。
この普遍的なテーマが監督によってどう撮られるのか、そしてその作品が上映される頃には検閲がどう変わっているか、いないのか。それに対して何か手段はあるのか。
次回ユー監督にその辺りの事情を聞く機会があればと思う。
早々に日本を離れてしまい、監督自身は審査員特別賞を受ける場にいなかったけれど、賞の副賞はコダック株式会社より4,000米ドル相当の生フィルム。
省都ハルビン以外は映像で見る機会が少ない黒竜江省。
ロシアと国境を接する中国最北の地を垣間見る、そして地元民の眼で撮るリアルな映像を見るのが楽しみです。

その他のコンペ部門の中国作品、『黄瓜』と『完美生活』。
どちらも中国の現実を切り取って目の前に突き出されたような作品。
『黄瓜』は北京が舞台で、ヤミで野菜を売る家族、面子を気にする「不能」男とその妻子、そして映画脚本を書きながらヒモ暮らしをしている青年と彼に貢いでいる若い女。
この話が上手く繋がっている手腕は何とも鮮やか。
Q&Aでは監督があまりに丁寧に解説をしてくるのが印象的だったが、そこまで練り込んだ自信作なのだろう。
日本でかつて「犯罪がアメリカ化した」なんて表現を使ったが、サイコパス/精神病質者的な犯罪が珍しくなくなった今、よそのお国の話ではない。中国でも猟奇犯罪のニュースなどはもちろん聞くのだが、『黄瓜』の青年の無軌道に見える犯罪に気が滅入ってしまった。だが、彼は北京に暮らす数え切れない地方出身者の単なる一例なのかもしれない。

『完美生活』=パーフェクト・ライフとは皮肉なタイトルで、この作品でもやはりより上の暮らしをしようとあがく、というより漂う女性の姿がどこか突き放したように描かれる{。エミリー・タン監督は四川省成都で生まれ、7歳のときに両親と北京に移り、大学を卒業してから映画を勉強。現在はこの作品やジャ・ジャンクー作品のプロデューサーである夫のチャウ・キョン氏と子供と移住した香港に住んでいる。
『ラスト、コーション』で一躍スターになったタン・ウェイのことを思い出したのだが、彼女は日本軍に協力した男を守った役を演じたから、あるいは「脱ぐことで安易に有名になった」などと言われ大陸で干されたが、香港政府が行う住民拡大制度の「優秀人材入境計画」の申請に通り居住資格を得たとのこと。もちろん「優秀人材」と認定される人は限られている。
認定されないであろう多くの女性は結婚を含め様々な手段を使う。
「中国と香港の両方の文化をミックスした映画を撮り続けていきたい」というタン監督。二つの中国を知る目線で、今後どんなテーマが描かれるのだろうか。

アジア(かなり広域の)今を反映した映画祭だからか、今回のコンペ部門は悲惨な話が多かったという印象が強い。
カザフスタン映画『ヘアカット』など、救いようのない終わりに世界の普遍的な状況を見た気がした。
そんな中で最優秀作品賞を受けたアリ・フォルマン監督『バシールとワルツを』(イスラエル、フランス、ドイツ/08年)は、映画自体に希望を感じるアニメーション作品。アニメとは呼びたくない、大人の観賞に堪えうる不思議な感覚を起こさせる作品で、センスがいいということに尽きるのだろう。
現実の人物という設定でも、生身でないドライな描写をされていることで、それが夢のシーンなどと無理なく繋がるのだ。

また、リアルタイムで世界中の人が聞いたであろうOMDやPILの曲を使うことで、身近でないレバノン戦争の同時代性を感じ、実写で戦闘を再現されている時のようなドラマチックさ(あるいは嘘っぽさ)がない。作られた意図が明確であるため、声高に弾圧をするよりアニメーションというフィルターを通したことで、過去のイスラエルの過ちを考証する冷静さが際だつ。
Q&Aに登壇したアニメーション監督のヨ二・グッドマン氏は、アニメーション大国の日本で上映できて嬉しいというようなコメントをしていたが、『バシールとワルツを』はその成熟度、大人であることにおいて日本のアニメを越えている。

最後にジョニー・トー監督『文雀』。
洒落ていて、こちらもなんとも大人向けの映画。
配給が決まった際にはこちらのサイトでも触れたいと思います。

フィルメックスの動画とテキスト両方でQ&Aやトークの内容を後で確認できるサイトも優れものです。
http://filmex.net/mt/broadcast/


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松下由美・・・・東南アジアとヨーロッパに長く滞在。
映画祭・映画イベントの司会・英語通訳や映画撮影の製作を担当している。
アート、インディペンデント系、アジア作品を多く担当し、中国語圏作品好きも高じて中国へ短期留学経験あり。
Sintok シンガポール映画祭実行委員。http://www.sintok.org/
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